資本金の額をどのようにして決定すべきか

資本金の額をどのようにして決定すべきか

Yoshio Yamaguchi

会社の設立に際して、資本金の額を決定して出資者はその金額を出資する必要があります。

資本金は、定款や登記事項証明書(登記簿謄本)に記載され、誰でも金額を確認できます。本記事では、資本金の決定に際して考慮すべき法令上の規制にはどのようなものがあるかを解説します。

資本金とは

資本金とは、いわゆる事業の元手といわれるものであり、出資者による会社への投資金額にあたります。かつては、会社財産を確保するための基準となる金額であり、会社債権者を保護するための重要な金額であるとされていました。しかし、資本金が多いからと言って、実際に企業がそれだけの資金を保有しているわけではなく、2005年の会社法施行以降は最低資本金制度が廃止されるなどして、その重要性に対する認識は弱まったと考えられます。

本記事での資本金とは、会社法上の資本金のことを言い、登記簿謄本及び貸借対照表に「資本金」として記載されるものです。会社法・会計・税務上は、資本金と資本準備金、純資産とは区別されます。

税務の観点

法人税率

法人税は23.2%の税率が課されますが、資本金1億円以下の中小法人の場合、年800万円以下の所得部分は15%に軽減されます。資本金1億円を超える法人は所得のすべてに23.2%の税率が適用されます。中小法人の定義については後述する「中小法人のための優遇特例例」をご確認ください。

例えば所得が3000万円だった場合、

<資本金が1億円を超える法人>

3,000万円×23.2%=696万円

<資本金が1億円以下の法人>
法人税額(所得800万円以下の部分):800万円×15%=120万円

法人税額(所得800万円超の部分):(3,000万円-800万円)× 23.2%=5.104万円

法人税額合計:120万円+5.104万円=6.304万円

両者の差は65.6万円になります。さらにこれをもとに住民税が計算されるため、両者の差はこれ以上になります。法人税率の観点からは資本金は1億円以下に設定することが有利です。

法人事業税

都道府県レベルが法人に課す税金一つに、法人事業税があります。さらに法人事業税の内訳には、所得割、付加価値割、資本割があります。付加価値割及び資本割のことを特に「外形標準課税」と呼び、この二つは所得が赤字の場合にも一定金額が発生します。

資本金1億円以下の普通法人の場合、外形標準課税は課されず、所得割のみが発生します。他方で資本金1億円超の場合には、所得割及び外形標準課税が課されます。

法人事業税の観点からは、資本金は1億円以下が有利です。

なお、法人に対して課される法人税等の全体像は

会社に対して課される日本の税金-法人税等、税率と計算例

をご覧ください。

中小法人のための優遇特例

租税措置法においては、資本金1億円以下の中小法人のために、上記以外にもいくつかの優遇特例を設けています。

A: 800万円以下法人税率の特例(上記参照)

B: 研究開発税制(措置法42の4等)

B: 給与等の支給額が増加した場合の税額控除制度(措法42の12の5②)

B: 30万円以下の少額減価償却資産を全額損金算入可能(措法67の5①)

C: 年800万円以下の交際費は全額損金算入可能

ここでの中小法人の定義は、各特例ごとに若干異なりますが、おおむね次の通りです。

    ・資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人

    ・資本金5億円以上の法人に100%支払されている法人は除く(上記A,Cの場合)。

    ・資本金1億円を超える法人によって一定割合以上を支払されている法人は除く(上記Bの場合)

    ・資本金5億円以上の法人によって100%支配されている法人によって、一定割合以上を支配されている法人を除く(上記Bの場合)

    均等割り

    法人は、都道府県及び市町村の両方から均等割りを課されます。均等割りの金額は、資本金等及び従業員数によって決定され、黒字の場合でも赤字の場合であっても発生します。資本金ではなく「資本金等」であり、これは資本準備金を含みます。

    均等割りの金額(都道府県民税)

    資本金等の額

    均等割(都道府県民税)

    1千万円以下

    20,000

    1千万円超1億円以下

    50,000

    1億円超10億円以下

    130,000

    10億円超50億円以下

    540,000

    50億円超

    800,000

    均等割りの金額(市町村民税)

    資本金等の額

    均等割り(市町村民税)

    従業員50人超

    従業員50人以下

    1千万円以下

    120,000

    50,000

    1千万円超1億円以下

    150,000

    130,000

    1億円超10億円以下

    400,000

    160,000

    10億円超50億円以下

    1,750,000

    410,000

    50億円超

    3,000,000

    410,000


    消費税

    課税事業者とは、消費税の確定申告をし、納税又は還付請求をする事業者を言い、免税事業者とは、その義務が免除されている事業者をいいます。

    小規模事業者が免税事業者としてのメリットを享受するためには、下記の要件を満たす必要があります。

    ・基準期間(*1)における課税売上高が1,000万円以下であること。

    ・且つ、前課税期間の前半6か月における課税売上高又は給与金額が1000万円以下であること。

    ・且つ、適格請求書発行事業者登録をしていないこと。

    ・設立1期目と2期目については、上記の課税売上高の金額ではなく、資本金の額が1000万円以下であること。

    (*1) 基準期間とは、その課税期間の2事業年度前の事業年度を言います。

    従って、設立1期、2期目に免税事業者となるためには、資本金を1000万円以下に設定する必要があります。

    設立初年度及び次年度において消費税法の観点から免税事業者としてのメリットを受けるためには、資本金は10百万円以下である必要があります。

    配当規制

    日本の会社法においては、いくらまで配当してよいか(分配可能額)について規制があります。

    分配可能額は、おおよそ純資産から資本金、資本準備金、利益準備金を控除した金額です。従って、資本金が大きければ大きいほど、分配可能額は小さくなります。もし、株主である外国法人が日本子会社からの配当金の方法によって投下資本を回収したい場合には、資本金は多いほうが有利でしょう。

    経営管理ビザ

    外国人が日本にて会社経営を行うためには経営管理ビザが必要です。経営管理ビザの要件の一つに「500万円以上の出資」という事業規模要件があります。会社の場合、資本金が500万円以上であれば、自ずと「500万円以上の出資」であることの証明になります。

    許認可の観点

    事業を行うに際して公的機関からの許認可が必要となる業種がありますが、会社登記簿や貸借対照表に記載される「資本金」の金額についての要件があるかどうかは、専門家へ確認されることをお勧めします。

    例えば、有料職業紹介業は最低資本金として500万円必要と記載をしているサイトが多くあるように見えますが、正確ではないようです。

    正確には、「資産(繰延資産及び営業権を除く。)の総額から負債の総額を控除した額(以下「基準資産額」という。)が、500万円に申請者が有料職業紹介事業を行おうとする事業所の数を乗じて得た額以上であること」が必要であり、資本金の金額が500万円であることを規定してはいません。。

    無料職業紹介事業の許可基準(厚生労働省)

    他にも、旅行業、建設業、運送業の許認可についても、資本金の金額の基準があるのではなく、純資産の金額に対する規制があるようです。

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