外資系企業のための会計事務所の選び方

外資系企業のための会計事務所の選び方

Yoshio Yamaguchi

もしあなたが外資系企業勤務の方で、日本の会計事務所を探している場合には、適切な判断で会計事務所を選ぶことが大切です。本記事では、外資系企業のための会計事務所の選び方を網羅的にご説明します。

税務と英語は水と油

近年の翻訳ソフトの性能向上には驚くべきものがあります。通常業務であれば、英語がそれほど堪能でなくても、翻訳ソフトを使用すればメールのやり取りには問題はないでしょう。

しかし、問題が発生した場合や専門的な論点を説明したい場合、対面でのコミュニケーションが必要な場合には、英語能力の有無が重要です。

日本の制度上、会計監査を担当する公認会計士と税務申告を担当する税理士は区分されています。英語の話せる公認会計士は比較的多く存在します。大手監査法人の公認会計士や大企業の経理担当者などです。しかし、 英語の話せる税務専門家となると、とたんに難しくなります。

英語スキルがある税務専門家が少ないことの背景には、構造的な要因があると思います。

開会監査の世界では、IFRSのような世界共通の会計基準が議論されていますが、税務の世界では各国がそれぞれ独自に税法を制定しており、それぞれに個性的です。

そのためか、英語ができて税務もできるプロフェッショナルというのは極めて少ない状況になっているのだと思われます。

会計事務所が貴社にアサインする担当者は、英語が話せて会計知識もあるでしょう。しかし、税務のプロフェッショナルかどうかは要確認する必要があります。 

労務と英語はもっと水と油

労務の制度というのは、国の歴史と慣習を背景に出来上がっているため、税務よりもよりドメスティックであり、各国それぞれに個性的と思われます。そのためか、給与計算、社会保険、所得税計算について、英語でそれを説明できるという労務の専門家―社会保険労務士は少ないと感じます。

会計記帳担当者は税務が分かるとは限りません

税務や労務に比べると、会計記帳の知識はさほど難しくはありません。会計記帳ができるバイリンガル職員は、珍しくはないと思います。

しかし、会計記帳業務において重要なことは「税務上の論点の存在に気づくこと」だと思います。日常的な記帳作業において、消費税の処理、源泉徴収の有無、租税条約上の判定といった外資系企業特有の税務論点に適切に対応しなくてはなりません。

会計事務所が貴社のためにアサインする会計記帳の担当者が、税務知識があるとは限りません。マネージャーレベルでも、税務の専門家ではない可能性が十分にあります。 

ERP対応ができるかチェックしましょう

外資系企業の場合、親会社の方針によりERP(オラクル、SAP)を会計ソフトとして使用することがよくあります。しかし、日本製の会計ソフトに慣れている人にとっては非効率に感じるものです。筆者は苦い経験から、中小規模にすぎない日本子会社が海外ERPを導入することをお勧めしません。

しかし、選択の余地なくERPを使用するということであれば、効率的な運用を可能とする一定のノウハウが必要です。できる限り手入力を省き、エクセルインポートによって入力作業を自動化することが重要です。

GAAPコンヴァージョンスキルがあるかどうかをチェックしましょう

親会社とおなじ海外ERPを使用する場合には、期中の取引は米国基準かIFRSに準拠して記帳を行うことがあります。この場合、日本の会社法及び法人税法に準拠するために、期末決算では財務諸表を日本GAAPベースに組み替える作業が必要です。これには下記のようなスキルが必要となり、税理士よりも公認会計士向きの業務と言えます。

  • 日本基準と米国基準/IFRSとの間のGAAP差異を理解している。
  • 過年度のGAAP調整データと当年度のGAAP調整データが、エクセル上で適切に管理されている。
  • 外国にいるコントローラーの方と英語にてやり取りをして情報を入手する。

会社の規模と、財務諸表の複雑性によって難易度は変わってきます。

弊社では、GAAPコンヴァージョンだけをご依頼いただいているクライアント様もいます。

(*) GAAP: Generally Accepted Accounting Principle 

大きい会計事務所と小さい会計事務所、それぞれ一長一短があります

下記は、大規模会計事務所と中小会計事務所、それぞれの長所、短所のまとめです。
(一定の傾向を表したものであり、全ての会社がこれに当てはまるわけではありません)。

 

長所

短所

大規模会計事務所

(1) 移転価格税制やM&A組織再編税制といった専門性の高い分野の専門家にアクセスできる。

(2) ITセキュリティ、情報漏洩、個人情報保護への対応ができている。

(3) 業務の品質について信頼感がある。

(4) 給与計算、社会保険業務、法務を含めたワンストップのサービス提供が可能。

(1) 税務に関する質問をすると、時間チャージで高額な報酬を請求される場合がある。(例としては、シニアスタッフで時間単価2万円、マネジャーで4万円、パートナーで10万円)。気軽に相談するわけにはいかない。

(2) 社内の承認手続きが厳しいため、通常でないリクエストに対しては、対応が遅かったり、対応ができないということがある。

(3) 人の出入りが多く、チームのメンバーがよく変わることがある。さらには引継がきちんとしていないことがある。業務品質のレベルは、担当者によって違いがある。

中小規模の会計事務所

(1) 価格水準が妥当。

(2) クライアントからの追加質問やリクエストに対して柔軟にフットワーク軽く対応できる。
(3) 小規模事務所の場合、代表者がすべてのチームに中心メンバーとして関与することによって、業務水準が一定に保つことができる。

(1) 移転価格税制、M&A組織再編税制といった専門性が高い分野には対応できないか、不安がある。

(2) IT セキュリティ、情報漏洩、個人情報保護への対応が遅れているかもしれない。


最後に

外国人、外国企業が日本で成功するためには、適切な会計事務所を選択することが重要です。英語でのコミュニケーション、難解な日本の税務及び労務の解説、GAAPコンバージョンやERPシステム運用のような特殊なスキル、これらの業務を遂行できる必要があります。

大きい会計事務所の場合、幅広いサービスと専門性を提供できる可能性が高いですが、コストが高いことや担当者が定着しないなどの問題があります。中小会計事務所の場合は、柔軟性、親密性のあるサービスが提供される可能性がありますが、特殊な領域の税務には対応していないという問題があります。

貴社がどのような能力及びサービスを会計事務所に期待しているのかを明確にし、会計事務所の長所短所を抑えることによって、会計事務所選びが失敗するリスクを最小限に抑えることができるはずです。

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