海外進出企業の税務論点―寄附金課税

海外進出企業の税務論点―寄附金課税

Yoshio Yamaguchi

海外に子会社を有している日本企業の場合、直面するであろう税務上の論点が多く、税務リスクが高くなります。税務調査の現場では「国際税務専門官」という肩書の専門員が参加し、指摘事項の発見に務めているようです。

税務調査の時に、不測の追徴課税を受けることがないように、海外進出企業は、どのような税務上の論点があるかを事前に把握し、日常の業務プロセスの中に有効な対応策を組み込んでおく必要があります。

海外進出企業には、大きく言うと、次のような税務上の論点が関係してきます。

①国外関連者に対する寄附金課税、移転価格税制

②子会社合算税制(いわゆるタックスヘイブン税制)

③源泉徴収が必要となる海外取引

本記事では、①寄附金課税についてその概要を解説いたします。

国外関連者に対する寄附金課税、移転価格税制

日本の親会社が行った支出が、海外子会社等に対する寄附金と認定されると、その支出の全額が損金に算入されないという不利益を受けます(租税特別措置法66条の4)。

又は、時価と異なる価格で取引をすることによって、海外子会社にとって有利な取引をした場合、時価で取引をしたものとみなして追徴課税を受ける可能性があります。

寄附金課税と移転価格税制のどちらが適用されるかは、必ずしも厳密ではないようですが、基本的に追徴課税の金額に差異は生じません。

ここでは、寄附金課税が問題となりやすい2つのケースをご紹介します。

ケース1 海外子会社に対する役務提供の対価を回収しない

例えば、日本親会社が海外子会社に対して次のようなサービスを提供している場合、対価を回収しないと寄附金課税の対象なる可能性があります。

・経理業務、予算の作成、資金繰り及び債権債務の管理
・情報システムの運用、管理
・広告宣伝費の負担
・製造技術、ノウハウの提供
・製造設備の無償貸与
・海外子会社に対する無利息貸付
・製造子会社や販売子会社に対する出張支援

これに対して、日本親会社が子会社支援のためではなく、自らの必要性に基づいて支出した部分は、基本的には寄附金とはなりません。

例えば次に述べる株主としての活動や、品質管理のための出張です。

株主活動費用

日本親会社が株主であることから、グループ管理のための子会社監査など、海外子会社にとって価値を有さない親会社都合の業務については対価の回収をする必要はありません。事務運営指針2-9(3)では次の活動を例示しています。

・親会社が実施する株主総会の開催や株式の発行など、親会社が遵守すべき法令に基づいて行う活動
・親会社が金融商品取引法に基づく有価証券報告書等を作成するための活動。
・海外子会社が自らのために行う業務活動(経理、予算管理、債権管理、広告宣伝等)と、重複する活動を日本親会社が行う場合。

なお、親会社が子会社等に対する投資の保全を目的として行う活動で、かつ、当該子会社にとって経済的又は商業的価値を有するものは、役務の提供に該当し対価の回収を要します。

ケース2

海外子会社への出向者給与の補填

日本親会社から海外子会社へ従業員を出向させる時、原則は、海外子会社がその給与の全額を負担すべきです。日本親会社が、給与の一部を負担している場合には、海外子会社に対する寄附金として認定され全額が損金不算入になります。

しかし、日本親会社による支出が、海外子会社が所在する国の給与水準と日本の給与水準の格差を補填するためのものである場合には、その格差補填部分は寄附金とはされません(法人税基本通達)。ここでは海外子会社が後進国である場合を想定しており、先進国である場合には、給与格差の存在を客観的に立証することは難しいかもしれません。

社会保険料負担について

海外出向者の日本での社会保険を継続するために、日本親会社が一定金額を給与として海外出向者に支払い続けることがあります。これは、出向先の国の社会保険制度の充実度合い、及び出向社員の健康や年金受給額への影響を考慮したものであり、損金算入が認められる余地が大きいとみられます。

日本親会社が負担した社会保険料相当額の給与については、海外子会社に請求をすれば、損金不算入とされる余地がなくなります。日本親会社は単に日本での給与を一時的にたてかえただけ、ということになりますが、この場合でも、社会保険上は日本親会社と海外出向者の間の雇用関係を認め、社会保険の継続性には問題がないとのことです(詳細はこちら「海外勤務者の日本社会保険料の負担」)。

海外出向者が役員の場合

日本親会社の役員が、役員としての身分を継続したまま海外子会社に出向する場合には注意が必要です。海外出向社員が日本親会社の役員を兼務する場合には、日本にて支給を受ける給与は国内源泉所得とみなされます。非居住者に対する国内源泉所得なので、日本親会社には20.34%の源泉徴収を行う必要があります(所得税法161上12号イ)。

当該役員は、勤務地国の税法に基づいて勤務地国においても課税を受けることになると思われますが、この時の日本及び居住地国による二重課税を排除できるかどうかについては、できる場合とできない場合があります。この論点は別の記事にて解説をしています。

まとめ

以上のように、海外子会社と日本親会社の間の取引は、特に寄附金課税及び移転価格税制の観点から税務リスクが高くなっています。

これ以外にも、源泉徴収を要する海外取引、シンガポールなどの低税率国に子会社を有するときには子会社合算税制(いわゆるタックスヘイブン税制)といった税務リスクがあり、国際税務の知識及び経験を有する税務専門家の関与が望まれるでしょう。

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