外国人、外国企業による日本子会社の設立

外国人、外国企業による日本子会社の設立

Yoshio Yamaguchi

外国人・外国企業が発起人として日本に会社を設立する場合、基本的には、日本企業が子会社を設立する場合と同じ手続きを実施します。しかし、外国人、外国企業であるがゆえに発生する特殊な手続き、問題点といった留意事項も存在します。

下記表の左側は会社設立のプロセス、右側には外国人・外国企業が留意すべき事項を記載しています。

プロセス

外国人・外国企業が留意すべき事項

企画段階

外為法上の事前届出が必要かどうかの検討が必要

会社住所

事務所の用意ができるか。

定款作成

資本金の金額、決算日、役員、組織構成など決定すべき事項があります。

定款認証(株式会社の場合)

宣誓供述証の用意、サイン証明書の用意、実質支配リストの用意

資本金の払込(株式会社の場合)

資本金の払込口座の用意ができるか

会社印鑑の用意

サイン証明書の用意

登記申請


会社の銀行口座開設

銀行口座開設ができるかどうか


外為法上の事前届出、事後報告制度

国家安全保障上の理由から、外為法(外国為替及び外国貿易法)では、外国投資家が、指定業種を営む日本企業に対して、直接投資等一定の行為を行う場合、外国投資家に対して事前届出を義務づけています(外為法第27条)。

事前届出該当業種には、情報通信業やソフトウェア製造会社も含まれ、その対象範囲は多岐にわたります。また、特にIT関連企業の場合にはその範囲が明確ではなく、対応に迷うことがあると思われます。

事前届け出の必要な業種(一部)

・武器、航空機、宇宙分野
・感染症に対する医薬品に係る製造業、高度管理医療機器に係る製造業
半導体製造装置等の製造業(全てコア業種)
蓄電池製造業・素材製造業(全てコア業種)
サイバーセキュリティ関連業種(情報処理関連の機器・部品・ソフトウェア製造業種、情報サービス関連業種)(一部コア業種)
インフラ関連業種(電力業、ガス業、通信業、上水道、鉄道業、石油業、熱供給業、放送業、旅客運送)(一部コア業種)
警備業、農林水産業、皮革製品製造業、航空運輸業、海運業(一部コア業種)

どのような対日投資が該当するのか、事前届出が免除される要件は何か、事前届出のながれはどのようになっているのか、等についての解説は、こちらの記事をご覧ください。

会社住所の確保

登記申請に際しては、申請書には会社住所を記載する必要があります。しかし、まだ会社が存在していないため、会社が事務所を賃借することはできません。そこで、日本に居住していない外国人・外国企業の場合には、下記のような方法があります。

・日本人役員か日本人協力者が個人の名義で契約締結し、会社登記完了後に会社名義に変更する。
・英語による契約が可能なサービスオフィス(Regus、Servcorp、Wework、バーチャルオフィスなど)を利用し、発起人である外国法人が直接契約し、登記完了後に日本子会社名義に変更する。
登記申請書には日本人役員か日本人協力者の自宅住所を記載し、会社登記完了後に日本法人名義で事務所を賃借する。

定款の作成

定款とは、the article of incorporationのことで、会社設立に際して決定すべき基本事項です。例えば下記です。

・会社の名称
・会社の種類(株式会社か合同会社か)
決算日
資本金の額
会社機関
本店の住所
株式譲渡制限の有無
決算公告の方法

日本の法令、慣習に馴染みがない外国人にとっては、どのような観点から決定をするべきかを解説した記事はこちらになります。

宣誓供述書の作成

定款認証とは、定款が正当なものであることについて、法務局にて公証人による認証を受けることです。株式会社の場合にはこの定款認証が必要ですが、合同会社の場合には必要ありません。

日本法人が発起人となる場合、定款認証に際して日本法人の会社登記簿と会社代表者の印鑑証明書を提出します。外国法人が発起人となる場合には、登記簿謄本及び印鑑証明書がないため、そのかわりとして宣誓供述書を作成することになります。合同会社の場合は定款認証が不要のため、宣誓供述書も不要となります。

宣誓供述書には、日本の会社登記簿に記載がある事項を宣誓し、それに対して本国の公証役場等にて認証を受ける必要があります。

宣誓供述書の記載内容については決まったフォームが公表されていません。詳しくは、定款認証を受ける日本の公証役場にて詳細を確認しましょう。

定款認証には、全ての発起人が参加することが原則ですが、日本人の発起人のみが参加する場合には、他の発起人から委任状を受ける必要があります。

サイン証明書

宣誓供述書の提出に際しては、発起人となる外国法人代表者のサイン証明書が必要であり、これに対しても本国の認証を受ける必要があります。

定款認証の場面以外にも、登記申請に際して印鑑届出を行う場面でもこのサイン証明書が必要となります。

実質支配者に関する申告書(実質的支配者リスト)

企業が銀行口座を開設するに際して、銀行は実質的支配者リストの提出を求めてきます。実質的支配者リストとは、株式会社の氏名やその保有する議決権などが記載されたリストです。銀行が実質的支配者リストを確認することで、背景の人物や組織を確認してマネーロンダリングを防止することが趣旨です。

企業が作成した実質的支配者リストを公的に証明するために「実質的支配者リスト制度」が2022年に始まりました。これは、法務局が株式会社が作成した実質的支配者リストを確認して、証明書を発行するものです。

本制度による証明の対象となるのは株式会社であり、合同会社は対象とはなりません。いつ認証を受けるべきかの決まりはありませんが、株式会社はその設立の時に本制度による認証を受けることが便利です。

実質的支配者とは下記を言います。

・①設立する会社の50%を超える議決権を有する自然人
・②それがいない場合には25%を超える議決権を有する自然人
①②のいずれにも該当する者がいない場合には、出資、融資、取引その他の関係を通じて設立する会社の事業活動に支配的な影響力を有する自然人

制度の詳細は、法務省のサイトをご参照ください。

会社印鑑の用意

近年では印鑑の廃止が様々な領域で進んでいます。しかし、2024年現在において、会社が実印を持たないことにはまだ不安があり、会社実印を持つ方が無難であると思われます。

会社設立の登記に際しては、会社の印鑑を法務局に届け出ます。この時、会社代表者個人の印鑑登録済みの印鑑が必要になります。会社代表者が外国人の場合には、本国にて認証を受けたサイン証明書を個人印鑑の代わりに提出します。

2021年2月以降は、設立登記申請をオンラインで行う場合には、印鑑の届出に代えて、法務局発行の電子証明書の利用が可能となりました。

資本金の払込口座の確保

会社設立に際しては資本金を払込む必要がありますが、株式会社と合同会社の場合で違いがあります。株式会社の場合には、出資の払込みは銀行口座にて行う必要がありますが(会社法34条)、合同会社の場合には必ずしも銀行口座は必要ではなく、現金を準備して、代表社員が出資の払込を証する領収書を発行することで足ります。出資金払込用の銀行口座を準備できない場合、株式会社の設立は不可であり、合同会社の設立に限定されると考えられます。

株式会社の場合、原則として、発起人個人の銀行口座が資本金の払込先口座になります。資本金の払込先の銀行口座として認められているのは下記です。

・国内内国銀行の日本国内本支店
・外国銀行の日本国内支店(内閣総理大臣の認可を受けて設置された銀行)
国内内国銀行の海外支店

外国人個人の場合にも外国法人の場合にも、通常は日本に銀行口座を保有していないため、資本金の払込み先口座をいかに確保するかが課題となります。

この点、発起人が日本国内に銀行口座を保有していない場合には、設立時取締役や設立時代表取締役行の口座でもよく、さらには第三者の銀行口座でもよいとされています。

そのため、資本金の払込みを一時的に受け入れてくれる第3三者を確保するべきです。

例えば、日本採用の日本人役員か従業員、会社設立実務をサポートするコンサルタントの中には、自身の銀行口座への資本金払込みを承諾する場合があります。

日本人等の協力者がいない場合には、6カ月経営管理ビザを取得してから来日し、自分名義の銀行口座を開設し、そこに資本金の払い込む、という方法も考えられます。

法人の銀行口座開設

晴れて会社が設立された後に、会社の法人口座を開設することになりますが、日本子会社の役員が外国人のみである場合、いわゆるネット銀行を除いて口座開設に応じない銀行が多いと思われます。経営者が外国人の場合、銀行約款、契約書等を読めず銀行取引を理解できない恐れがあるためです。

また、最近は(2024年6月現在)日本人役員がいるにもかかわらず口座開設に応じないケースも出てきているようです。日本人が実際に事業には関与しない名目だけの役員であることが良くないのかもしれませんが、理由はよくわかりません。

日本語が堪能ではない経営者が外国人であっても、レストランや販売店など小売業の場合には銀行口座はスムーズに開設されますが、中古車を日本で仕入れて海外に輸出する販売業だと銀行口座開設は難しいようです。これは、日本での事業の実態が確認できれば、銀行は銀行口座開設に応じ、実態が確認しずらい場合には応じない、ということだと思われます。

仮に法人の銀行口座開設ができない場合には、とりあえずは経営者個人の銀行口座で事業を行っていくしかありません。しばらく日本での実績を積んでから銀行に再度口座開設を依頼すれば、銀行もそれに応じる可能性が高くなるようです。

まとめ

以上みてきたように、外国人・外国企業による会社設立には、外国人特有の法的、手続き的な障害が存在します。それぞれの各プロセスで、日本での法令に準拠した慎重な対応が求められます。法務局、公証人、コンサルタントなどは相談をすれば有益なアドバイスをしてくれ、スムーズな手続き履行をサポートしてくれます。

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